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岡山地方裁判所 昭和44年(ワ)853号 判決 1974年7月19日

原告

石川リヨ

ほか一名

被告

岡山県

ほか二名

主文

1  被告らは各自、原告石川リヨに対し一三〇万九〇八八円およびうち一一五万九〇八八円に対する昭和四四年五月一日から、うち一五万円に対する被告岡山県にあつては同年一一月一六日、その余の被告らにあつては同月一九日からいずれも完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告石川博康に対し二〇三万一五八九円およびうち一八八万一五八九円に対する同年五月一日から、うち一五万円に対する被告岡山県にあつては同年一一月一六日、その余の被告らにあつては同月一九日からいずれも完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告らのその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告ら、その余を被告らの負担とする。

4  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告石川リヨに対し二一〇万七八二二円およびうち一九一万七八二二円に対する昭和四四年五月一日から、うち一九万円に対する被告岡山県にあつては同年一一月一六日から、その余の被告らにあつては同月一九日からいずれも完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告石川博康に対し三四七万四九一〇円およびうち三一六万四九一〇円に対する同年五月一日から、うち三一万円に対する被告岡山県にあつては同年一一月一六日から、その余の被告らにあつては四月一九日からいずれも完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

訴外石川勇吉は、昭和四四年三月二三日午前一〇時五分頃、倉敷市児島下の町六丁目二番一三号先道路上左側を自転車に乗つて北進中、その後方を同じく北進してきた被告美香運転の自動車(車名トヨタカローラ)が勇吉の右側を追い越したうえその約五メートル前方に、車体前部左端が道路左端の延石まで約一五糎を残し、後部左端が右延石まで約八〇糎を残す斜めの姿勢で急停車し勇吉の進路を塞いだ。そのため勇吉の右肘部が被告車左側部に接触し、勇吉の乗車する自転車はぐらつきながら被告車左側を走行し、延石の欠けていた箇所から、右道路に沿うてその西側を流れる川に転落した。そして、同訴外人は、その川底に落ちていた延石に頭部を打ちつけ脳挫傷、頭蓋骨および頭蓋底骨折等の傷害を受け同年四月一二日死亡するに至つた。

2  責任原因

(一) 被告美香の民法七〇九条による責任

(1) 被告美香は自動車運転者として自転車などの前車を追い越しその前方に停車する場合には、道路左側端と自車との間に前車が通行しうるような間隔を置くなど前車の進行を妨害しないような位置に停車しなければならない注意義務があるのにこれを怠り、勇吉の進行する約五メートル前方に、前記のような姿勢で停車して勇吉の進路を妨害した過失がある。

(2) 被告美香は、勇吉の自転車の右側を追い越した後その前方に停車するにあたつては、手または方向指示器によつてその旨の合図をしかつ停車し終るまでその合図を継続しなければならない注意義務があるのにこれを怠り、勇吉の進行する直前に何らの合図なくして停車した過失がある。

(3) また同被告は、道路左側端に自動車の車体を寄せようとする場合には、自己の左後方を追従する車両等の進路を妨害しこれに不測の事故を発生させることのないようバツクミラーなどにより左側後方の安全を確認したうえでその進路を変更すべき注意義務があるのにこれを怠り、左後方を自転車で追従する勇吉の動静に注意をせずその安全を確認しないで自車を左斜めに寄せた過失がある。

(二) 被告県の国家賠償法二条一項による責任

(1) 本件事故の生じた道路は倉敷市児島字野津と同下の町との間を結ぶ県道であつて、同被告においてこれを設置し管理している。

(2) 本件事故は同被告の右県道に対する設置および管理の瑕疵に基づくものである。

すなわち、本件道路の西側端には、その西側に沿うて流れ、川底が右道路面から約二メートル下にあり、幅員が約五・四メートルの下村川に人車が転落するのを防ぐとともに車両を正常な進行方向に復元させ運転者の視線の誘導に供することを目的として、南北約三四・五メートルの長さにわたり延石が根石の上にらんかん状に約四〇センチメートルの高さの二段積みに設置されていたところ、右延石の北端から南へ約六メートルの箇所から南へ約七メートルにわたり、上段の延石が数年前から川底に脱落したままになつていた。同被告がこれをそのまま放置していたことは本件道路の付属施設である石造防護欄についての設置ないし管理に重大な瑕疵があつたものというべきである。

仮に本件の延石および根石からなる施設が被告県の主張するように路外への転落防止の機能を有するものではなく自動車運転者の視線誘導の機能をもつにすぎないものであり、右延石の脱落が本件道路の設置または管理の瑕疵に該当しないとしても、本件道路は、商業、住宅地域にあつて学校にも近接しているため人車の通行量が多く、しかも歩道と車道の区別のない二車線の道路であつて、その西側約二メートル下にある下村川には、本件道路から川底に脱落した延石が数年前から放置されていたのであるから、本件道路を通行中の人車が、走行または急停車する車両をさけるため道路わきに寄りすぎて川底に転落し、あるいは転落した際川底に放置されてある延石に身体を打ちつけて重大な被害を蒙つたりする危険性は極めて高かつた。したがつて本件道路の管理者たる同被告はこれを防止するため近代的防護柵であるガードレールを設置すべきであつたのに本件事故当時これが設置を怠つたまま放置していたものであるから本件道路の管理に瑕疵があつたというべきである。

(三) 被告静馬の自賠法三条による責任

被告静馬は被告美香の運転していた本件自動車を所有し、日常これを自己のため運行の用に供していた。

3  損害

(一) 勇吉の損害

(1) 治療費 五万五八四三円

勇吉は本件事故にもとづく受傷により、昭和四四年三月二三日から同年四月一二日まで岡山市内の川崎病院に入院して治療をうけたが、その治療費に合計五万五八四三円を要した。

(2) 逸失利益 一九四万七六二三円

勇吉は死亡当時満七四才であつたが、明石被服興業株式会社から衣料品の加工を請負い、賃縫を業としていたもので、昭和四三年一月から昭和四四年三月までの一五か月間における一か月間の右業務による収入の平均は一一万八八五九円であるから、その年収は一四二万六三〇八円となり、同人はその就労可能年数である三年間右年収を得ることができたはずであるが、本件死亡によつてこれを失うことになつた。

したがつて、右年収額から同人の生活費として五割を控除した残額七一万三一五四円を基礎として年毎ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して同人が失つた利益の死亡当時の現価を算出すれば一九四万七六二三円となる。

713,154円×2.731(ホフマン係数)=1,947,623円

(3) 慰藉料 一五〇万円

勇吉の負傷時から死亡時までの精神的苦痛に対する慰藉料は一五〇万円を下らない。

(4) 相続

原告石川リヨは勇吉の妻であり、原告石川博康は勇吉の亡長女と亡養子との間の子である。したがつて、勇吉の被告らに対する前記(1)、(2)、(3)の合計三五〇万三四六六円の損害賠償請求権につき、原告リヨは妻としてその三分の一である一一六万七八二二円を、原告博康は代襲相続人としてその三分の二である二三三万五六四四円を相続により承継取得した。

(二) 原告らの損害

(1) 慰藉料

本件事故にもとづく勇吉の死亡によつて蒙る精神的損害に対する慰藉料は同人の妻である原告リヨに対して七五万円、その孫である原告博康に対して五〇万円を下らない。

(2) 葬祭関係費用 三二万九二六六円

原告博康は、勇吉の葬儀費用として一三万二二六六円を支出し、墓石建立費として一九万七〇〇〇円を負担した。

(3) 弁護士費用

原告らは、被告らが任意に本件損害の賠償をしないので原告ら訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任したが、その際原告リヨは一九万円、原告博康は三一万円の、いずれも賠償請求金額の約一割に相当する金員を弁護士費用として支払うことを約し、すでにその一部を着手金として支払つた。

4  結論

よつて、被告ら各自に対し、原告リヨは二一〇万七八二二円およびそのうち一九一万七八二二円に対する本件事故による勇吉死亡の日の後である昭和四四年五月一日から、うち一九万円に対する訴状送達の日の翌日である被告県にあつては同年一一月一六日、その余の被告らにあつては同月一九日からいずれも完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、原告博康は三四七万四九一〇円およびうち三一六万四九一〇円に対する同じく同年五月一日から、うち三一万円に対する同じく被告県にあつては同年一一月一六日、その余の被告らにあつては同月一九日からいずれも完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する答弁

(被告美香)

1 請求原因1のうち原告主張の日時、場所を訴外勇吉が自転車で北進し、同じく被告美香が自動車で北進していたこと、勇吉が川底に転落したことは認め、その余の事実は否認する。

被告美香運転の自動車は、勇吉運転の自転車を、その落下点の南方約一〇メートルの地点で、時速約二〇キロメートルの速度で追い抜いた後、前方の交差点左方から右折してくる車を発見し、右交差点約五メートル手前の地点に停車したものである。被告美香運転の自動車の停車位置は、自車前部が道路左端の延石から東寄り約一〇〇センチメートル、その後部が同じく約一三〇センチメートルの位置であつたが、本件道路の幅員が約七メートルありしかも勇吉の車が自転車であることを考慮すると被告車の左側には勇吉の自転車が優に停車できる間隔があつた。

2 請求原因2(一)は争う。

前記事実によれば被告美香の車の停車位置およびその方法はともに適法であつて、同被告には本件事故発生につき何ら過失はない。

3 請求原因3は不知。

(被告県)

1 請求原因1のうち延石が川底に転落していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

2 請求原因2(二)のうち同(1)は認める。

同(2)のうち本件道路の西側にはそれに沿うて約二メートル下に幅約五・四メートルの下村川が流れており、その道路の西側端に南北約三四・五メートルにわたつて、延石が根石の上に乗せられ、二段積みのらんかん状の構築物が設けられていたが、本件事故当時その延石の北端から南へ約六メートルの地点から約七メートルにわたつて上段の延石が脱落しており、その間には根石二個のみを残していたことは認めるが、その余は争う。

根石および延石からなる本件施設は、その高さがわずか約四〇センチメートルしかなく、したがつてもともと車両の路外逸脱の防止を直接の目的とするものではなく、主として歩行者または運転者の視線誘導を目的とするにすぎない施設であるから、延石が脱落していなくても本件のように延石に接近した位置でその延石と平行に停車し、自転車に乗つたままの姿勢で延石を超えて横転する事故に対しては何ら効用を果しえないものであるし、また一部脱落があつても視線誘導の機能に欠けるところはなく、本件道路の設置または管理に瑕疵はなかつたというべきである。

また原告はガードレールの設置を欠いていたことを把えて本件道路の設置または管理に瑕疵があつたと主張するが、ガードレールは自動車に対する防護柵であつて、歩行者や自転車の河川への転落を直接防止しようとするものではないから、これの設置がなされていなかつたからといつて本件道路の設置または管理に瑕疵があつたとはいえない。

また、道路管理者としてはその道路の通常一般的な利用状態のもとにおける普遍的な事故防止を課せられるに止まるから本件のような自転車運転者が走行中にペダルに足をのせたままの恰好で横転するというような特異な転倒事故に対してまでこれを防止する義務を負担させられる筋合はない。

3 請求原因3は不知。

(被告静馬)

1 請求原因1に対する答弁は被告美香のそれと同一である。

2 請求原因2(三)の被告静馬が被告車を所有していたことは認めるが、その余は争う。

3 請求原因3は不知。

三  抗弁

1  被告静馬の免責

(一) 被告美香および同静馬は、前記「被告美香の請求原因2(一)に対する答弁」に述べたとおり本件自動車の運行に関し何ら注意を怠らなかつた。

(二) 本件事故はすべて勇吉の一方的過失によるものである。

(三) 本件自動車に構造上の欠陥または機能の障害はなかつた。

2  過失相殺

(一) 被告美香は、同静馬

被告美香は、被告車を本件事故現場に停車せしめるに当り、道路左側端との間に被告車の前端において八〇糎後端において九〇糎の間隔を置いたものであるから、勇吉の運転技術が並のものでありかつ前方を注視しておれば、被告車の左側に停車しえたことは勿論であるのみならず即時停車することさえ可能であつたにも拘らず、運転技術の未熟であつた勇吉はあまつさえ前方注視を怠り漫然と進行したため本件事故の発生をみたものであり、勇吉の過失は大きいので賠償額の算定に当つてはこれを斟酌すべきである。

(二) 被告県

本件事故現場道路の西側には、それに沿うて下村川が流れており、その底は道路面から二米も下にあり、しかも右道路の交通量は昭和四三年頃から漸次増加し交通事情は悪化してきていた。

勇吉は本件事故当時年令七四才であり、運動の反射神経が十分に活動しえないおそれが強かつたものであるし、また右のような本件事故現場の事情を熟知していたものであるから、その付近を自転車に乗つて通行するに当つては、諸般の状況を考慮し、後方からの自動車の接近を認めたときは減速するか停車するなどして自らの身の安全を図り、万一の事故の発生を未然に防止するよう細心の注意を払うべきであつた。

然るに、同訴外人は右注意義務を怠り漫然と進行したため本件事故の発生をみたものであり、賠償額の算定に当つては右過失を斟酌すべきである。

四  抗弁に対する答弁

1  被告静馬の免責の抗弁を争う。

2  本件事故の発生につき勇吉に過失はなかつた。

美香は、自転車で道路の左側を進行していた勇吉の後方から被告車を運転してきて、同訴外人を追い越しざま突然その前方に進路を塞ぐ姿勢で停車したものであるが、勇吉にそれを予見すべきことを求めることはできず、勇吉がそのまま進行して被告車に接触したとしてもやむを得ないところであり、同訴外人に過失はない。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1のうち原告ら主張の日時にその場所を勇吉が自転車で北進し、その後方を被告美香が被告車を運転して同じく北進していたこと、勇吉が川底へ転落したことは原告らと被告美香、同静馬との間で、また川底に延石が落ちていたことは原告らと被告県との間でいずれも当時者間に争いがない。

そして、右の事実と〔証拠略〕を総合すると次のとおり認められる。

勇吉は昭和四四年三月二三日午前一〇時五分頃、倉敷市児島下の町六丁目二番一三号先路上を道路左端まで約一メートル弱の間隔を置いて北進していた。その後方を、被告美香は被告車(車名トヨタカローラ)を運転して北進し、時速約三〇キロメートル位の速度で勇吉の自転車を追い越そうとしたが、その追い越しを完了する直前前方から道路の右側部分を対向してくる大型トラツクを認め、これをさけるため勇吉の自転車の動静に何ら注意することなく減速しつつ被告車を左方へ寄せ、その前部左が根石との間隔三、四〇糎その後部を道路中央部寄に残す斜めの姿勢で停止した。後方から北進していた勇吉は被告車が近距離に停止したため、臨機の措置をとることができず、道路上を被告車の左側に沿いふらふらしながら斜め左前方へ走行した挙句道路の延石が脱落していた部分の左端の方へ転倒し、自転車は根石に引つかかつたが、勇吉は道路西側に沿うて流れ、川底が路面から約二米下にある下村川の川底へ転落し、そこに脱落していた延石に頭部を打ちつけ、脳挫傷、硬膜下血腫、頭蓋骨および頭蓋底骨折、頭部挫創の傷害を受け、右傷害により同年四月一二日死亡した。

〔証拠略〕のうち、右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる的確な証拠はない。

二  責任原因

1  被告美香の責任

前記のような状況の道路上で自動車を運転する運転者としては、自車の進路を変更して左方に寄せようとする場合自車の左後方を走行する車両等の動静に注意し安全を確認したうえで進路変更をなすべき注意義務があるものというべきところ、前記認定事実によれば、被告美香は勇吉の自転車の動静に何ら注意することなく漫然と自車を左方へ寄せた過失が認められるから民法七〇九条により後記損害を賠償する義務がある。

2  被告県の責任

本件道路は被告県が管理責任を負う公の営造物であること、その道路の西側約二メートル下には道路に沿つて川幅約五・四メートルの下村川が流れており、本件事故当時道路西側端にはその川に沿い南北約三四・五〇メートルの間にわたつて、根石に延石を乗せた二段積みの構築物がらんかん状に設置されていたが、右構築物の北端から南へ約六メートルの地点から南へ約七メートルの部分は上段の延石が川底へ脱落して欠けており、根石二個が残つているだけであつたことは当事間者に争いがない。

また、〔証拠略〕を総合すると、本件道路は、その付近に商店や学校があり、かつ人家が密集し、人車の通行量も相当多く、しかも歩道と車道の区別のない道路であること、そして、前記根石と延石からなる構築物は昭和一五、六年頃設けられたものであるが、事故の日の数年前から前記のとおり一部の延石が川底へ脱落したまま放置されていたが、事故後一年余を経過した昭和四五年七月頃事故現場附近の道路側端にガードレールが設けられたことが認められ右認定を覆えすに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、本件道路を通行する人車が下村川に転落し生命身体に危害を蒙る危険性は大きいものがあつたというべく、被告県は道路管理者として、下村川への転落事故防止のためその道路及び附属施設を常時良好な状態に維持し、適切な安全対策を講ずべき管理責任があつたということができ、また根石と延石からなる本件施設が副次的にではあるにせよ人車の河川への転落防止の機能を有していたことは否定できないところであり、これをその一部が欠損したまま放置したことは、本件道路の管理に瑕疵があつたものというべきであるし、被告県が主張するとおり右施設が路上通行者に対する視線誘導を目的とするにすぎず、通行人車の路外への逸脱防止を目的とするものでないとすれば、被告県は前叙した趣旨から本件道路側端に適切な防護柵等を設置すべきであつたところ、右設備を施していなかつたことはこれまた本件道路の管理に瑕疵があつたものといわなければならない。

而して〔証拠略〕によれば、勇吉は、延石が脱落していた個所から下村川に転落したものであり、前記延石あるいは防護柵が完備していたならば本件転落事故は発生しなかつたであろうことが認められ、右管理の瑕疵が本件事故の原因となつたことは明らかというべきである。

してみると、被告県の本件道路の管理には瑕疵があつたものというべく、被告県は国家賠償法二条一項により後記損害を賠償する義務がある。

3  被告静馬の責任

被告静馬が被告車を所有していたことは原告らと同被告との間で当事者間に争いがない。

そこで、同被告の免責の抗弁について判断するに、被告美香に被告車の運行に関し過失があつたことは前記認定のとおりであるからその余の点について判断するまでもなく右抗弁は失当であり、したがつて被告静馬は自賠法三条により後記損害を賠償する義務がある。

三  損害

1  勇吉の損害

(一)  治療費

〔証拠略〕によれば、勇吉は本件事故にもとづく受傷により昭和四四年三月二三日から同年四月一二日まで岡山市内の川崎病院に入院して治療を受け、その費用として同病院に五万五八四三円を支払つたことが認められ右認定に反する証拠はない。

(二)  逸失利益

〔証拠略〕を総合すると次のとおり認められる。

勇吉は本件事故当時満七四才であつて、明石被服興業株式会社から勇吉名義で学生服、替ズボンの縫製加工を請負い、妻の原告リヨ、孫である原告博康の嫁邦子らと、自宅のミシン二台を使用して右作業に当るかたわら、一部は下請に出し、必要経費を控除して少なくとも毎月一一万円の純益を得ていた。その家内作業にあつては、主として原告リヨと邦子がミシン作業に当り、勇吉は外交や製品の番号打ち等に従事していた。

以上のとおり認められ、右事実によれば勇吉の右収益に対する寄与率は三割とみるのを相当とし、したがつて勇吉の死亡による得べかりし収益の喪失は年額三九万六〇〇〇円となる。勇吉はその作業内容、年令からみて本件事故によつて死亡していなければなお三年間就労可能であり、その生活費は右収入のうち五割をもつて相当と認めるからこれを控除した一九万八〇〇〇円が勇吉の死亡による得べかりし年間利益の喪失額となり、これにもとづいて、右就労期間中の勇吉の逸失利益を年毎ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して本件事故当時の現価を算出すれば五四万〇七三八円となる。

198,000円×2.7310=540,738円

(三)  過失相殺

前記のとおり勇吉は壮健であつたとはいうものの七四才の高令であり、家人もかねて勇吉の自転車による外出は危険であると感じており、また勇吉は前記のような現場の交通事情、道路状況に精通していたものであることが認められるところ、勇吉は車両等の輻輳する道路上を自転車に乗つて進行し、本件事故に遭遇したものであり、これは勇吉がかような場合適宜自転車から降りて歩くかあるいは周囲の情勢に細心の注意を払い身辺に寄つてくる車両等に随時対処しうるよう心掛くべき注意義務を怠つたことによるものというのを相当とし、この過失は被告らの賠償額を算定するに当つて斟酌すべく、その過失割合は二割とみるのを相当とする。よつて、右損害(治療費と逸失利益)額五九万六五八一円につき過失相殺すれば被告らの賠償すべき損害額は四七万七二六五円となる。

(四)  慰藉料

本件事故の態様その他諸般の事情を考慮すれば、勇吉の精神的苦痛に対する慰藉料は一五〇万円をもつて相当と認める。

(五)  相続

〔証拠略〕によれば、原告リヨは勇吉の妻であり、原告博康は勇吉の長女亡マスエおよび養子亡役夫の代襲相続人であることが認められるから、勇吉の被告らに対する前記一九七万七二六五円の損害賠償請求権を、原告リヨはその三分の一である六五万九〇八八円、原告博康はその三分の二である一三一万八一七六円につき相続により承継取得した。

2  原告ら固有の損害

(一)  慰謝料

(1) 原告リヨの分

〔証拠略〕によれば、同原告は勇吉の妻として平穏な家庭生活を送つていたものであり、本件事故によつて夫を失つた精神的苦痛は甚大なものがあることが認められ、これに本件事故の態様、その他諸般の事情を考え合わせると、同原告の精神的苦痛を慰藉するには五〇万円をもつて相当とする。

(2) 原告博康の分

民法七一一条は死者の父母、配偶者、子に慰藉料請求権を認める旨定めているが、これを制限的規定と解すべきではなく、父母、配偶者、子以外の者であつてもそれと近似する親族であつて、死者との関係が夫婦親子関係と同視しうる程度の緊密な生活関係にあつた者については同条を類推適用して固有の慰藉料請求権を肯認するのが相当である。ところで、勇吉と原告博康は前記認定のとおり祖父、孫の関係にすぎないが、〔証拠略〕によれば、原告博康の父は昭和二〇年二月二六日戦死し、その後は勇吉が父親代りとなつてその面倒をみてきたことが認められ、原告博康にとつては勇吉は父親に準ずる存在であつたということができるから同原告についても慰藉料請求権を肯認するのが相当である。而して、右認定事実、本件事故の態様、その他諸般の事情を考慮すれば、同原告の精神的苦痛を慰藉するには三〇万円をもつて相当とする。

(二)  葬祭関係費用

〔証拠略〕によれば、原告博康は勇吉の葬儀費用として一三万二二六六円、墓石建立費として一九万七〇〇〇円を支出したことが認められる。而して、被害者側の過失として勇吉の前記過失を斟酌して過失相殺すれば、被告らの賠償すべき額は二六万三四一三円となる。

(三)  弁護士費用

〔証拠略〕によれば、原告らは被告らが任意に本件事故による損害金を支払わないので、原告ら訴訟代理人らに本訴の提起と追行を委任し、弁護士費用として五〇万円支払うことを約したこと、そして原告ら内部関係においては右金額のうち二〇万円を原告リヨが、三〇万円を原告博康が負担することになつていることが認められるが、本件事案の内容、審理の経過、認容額などを考慮すると、本件事故による損害として原告らが被告らに賠償を求めうべき弁護士費用の額は原告ら各自について一五万円宛をもつて相当とする。

四  よつて、被告らは各自、原告リヨに対し一三〇万九〇八八円およびそのうち弁護士費用一五万円を控除した一一五万九〇八八円に対する本件不法行為の後である昭和四四年五月一日から、うち一五万円に対する同じく被告県にあつては同年一一月一六日、その余の被告らにあつては同月一九日からいずれも完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、原告博康に対し二〇三万一五八九円およびそのうち弁護士費用一五万円を控除した一八八万一五八九円に対する同じく同年五月一日から、うち一五万円に対する同じく被告県にあつては同年一一月一六日、その余の被告らにあつては同月一九日からいずれも完済に至るまで同割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり、原告らの請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中原恒雄 白川清吉 池田克俊)

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